データ分析プロジェクトについて
2020年10月23日
目次
1. データ分析プロジェクトの目的
地域において市民と行政の共創による地域課題解決を進めるためには、市民と行政の間の情報の非対称性を解消する必要があります。
そのためには、市民も行政職員も、情報を「データ」という共有に適した形で扱うことができ、かつデータを組み合わせて新たな情報を引き出す「データ分析」の手法を使える必要があります。
そこで本プロジェクトでは、市民と行政職員の両者が、データ分析手法を習得して自分たちの業務や活動に役立てられるようになることをサポートします。
2. データ分析プロジェクトのターゲットとゴール
ターゲット1:地域課題解決に取り組む市民
プロファイル
- 地域課題を解決したい意思を持っている
- データを使うという意味が良くわからない、漠然とした苦手意識がある
- 課題解決につながるなら、新しいことにもチャレンジしたい
ゴール
- データを使って課題を取り巻く状況を客観的に把握できる
- データで自分たちの活動の効果を測定できる
- データを使って説明することで他者に行動変容を促すことができる
ターゲット2:地域課題解決に携わる行政職員
プロファイル
- 自分(達)の実施する政策・施策・事業の方向性が本当に合っているのか、実は不安
- 業務負担が増えることはできるだけしたくない
- データ分析を習得しなくてはと思っているが何から始めたら良いかわからない
ゴール
- データ分析結果を政策立案や施策・事業の実施計画に活用できる
- デジタルツールの使い方を習得して業務プロセスを効率化できる
- データを使って説明することで市民との合意形成を進められる
3. プロジェクト推進体制
プロジェクトリーダー
- 下山 紗代子
- 一般社団法人リンクデータ 代表理事
- 一般社団法人オープンガバナンス・ラボ 理事(2019年6月〜2020年3月)
- 琉球大学大学院で分子生物学を学び、バイオインフォマティクス系ベンチャーに就職。その後理化学研究所に転職し、ライフサイエンス統合データベース構築事業に参画。研究開発したデータ変換技術を活用しオープンデータ支援プラットフォーム「LinkData.org」を立ち上げ、一般社団法人リンクデータを設立。以降、総務省地域情報化アドバイザーや内閣官房オープンデータ伝道師、インフォ・ラウンジ株式会社取締役として自治体におけるオープンデータ・データ分析の支援や、Code for Japanデータ活用アドバイザー等シビックテックでのデータ活用支援を行っている。2020年に女性初の政府CIO補佐官に就任。
アドバイザリーボード
- 一般社団法人オープンガバナンス・ラボ 役員メンバー
4. 第1期成果報告
4-1. 客観的データを使って定性的効果を測る指標設計ワークショップ手法の開発
目的
地域課題解決の現場において、定性的な指標や効果はアンケート手法のみで確認されていることが多く、客観性に欠けたものになっていることが多い。現状の把握や活動の効果を測るためには、定性的な指標や効果を分解して定量的な指標に落とし込み、地域間や経年での比較・分析を可能にする手法を取り入れる必要がある。
そこで、定性的な指標や効果を分解して定量的な指標に落とし込み、地域間や経年での比較・分析を行えるようにするための、指標設計のワークショッププログラムを開発した。
実際の地域課題解決のフィールドにおいてワークショップを開催し、プログラムの実効性を検証して、ワークショップ手法の他地域への横展開を目指した。
連携団体
- 黒部市社会福祉協議会
- 「スマート社協」を目指し、福祉分野へのICTの導入に積極的に取り組んでいることで全国的に注目を集めている
- 2019年度に第3次黒部市地域福祉活動計画を策定し、SDGsを参考にした「5GOALS for 黒部」を発表
- 5GOALSの達成度を測るための具体的な指標の策定を2020年度に実施予定
実施スケジュール
コアメンバー(※)でのワークショップ
※コアメンバー:黒部市社会福祉協議会メンバー + 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員 + 関係者
- 第1回
- 日時:2020年4月20日(月)13:30 – 16:30
- 場所:オンライン開催
- 第2回
- 日時:2020年5月28日(木)13:00 – 17:00
- 場所:オンライン開催
- 第3回
- 日時:2020年8月4日(火)13:30-17:00
- 場所:オンライン開催
実施レポート
第1回ワークショップ
プログラム
- 13:30 – 14:00 趣旨説明、自己紹介
- 14:00 – 15:30 講義・質疑応答
- 15:30 – 16:00 今後の進め方、推進評価委員会のオンライン化等、感想、意見交換
Zoomでの接続や使い方のサポートを行いつつ、趣旨説明や参加者の自己紹介を行った
なぜデータを使う必要があるのか、地域課題解決においてデータをどのように使えると良いのかといったトピックで講義形式で説明し、適宜質疑応答やディスカッションを行った
今後の5GOALSの指標設計の進め方について参加者同士でディスカッションを行った
参加者:計18名
- 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員(候補):3名
- 事務局(黒部祉協):3名
- 関係団体(一般財団法人CSOネットワーク、他):10名
- 一般社団法人オープンガバナンスラボ:2名
資料
振り返り(下山)
当初は黒部市現地でのワークショップを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で移動を自粛し、オンライン開催の形を取ることになった。事前の協議でワークショップの開催を延期にする案も出ていたが、「この状況だからこそ新しい方法を試す良い機会でもある」と提案し、実施に至った。
当日は質問やコメントを自由に行って頂けるように、Zoom Meetingを使用して実施する形を取った。初めて使う方のためにトラブル対処のためのバッファをプログラムの最初に設けておいたため、滞りなく進行することができた。また、冒頭でチャットの練習兼書き込みのハードルを下げるために、「今日ランチに食べたもの」を書き込んでもらうというアイスブレイクを行ったのも効果があったように思う。
講義は「行政プロセスにデータ分析を取り入れるために知っておきたい知識と事例」というタイトルで、なぜデータを使う必要があるのか、データを使うことでどのような効果が期待できるのかといった説明や、データを上手く使っている事例の紹介を行った。参加者の方々からは活発にリアクションを頂き、行政や地域課題解決におけるデータ活用の状況への理解を深めて頂けたようであった。以下、頂いたコメントの一部を紹介する。-
自治体、PDFだけだったり、PDFをjpgで公開するのはやめてほしい…
-
「住みよさランキング」の指標を知ることは大切ですね。交通事故を起こさないとか、一市民でもできることがあること意識できる。
-
全国に広がっているあるプログラムの事業評価で、エビデンスレベルの高い評価(RCTを活用したインパクト評価)をしようとすると、とてもコストがかかりますし、倫理的に比較対象(対照群)のデータを取りづらいことがあります。そんなときに対照群のデータとして、既存の行政データを使いたいと思うのですが、行政は個人情報保護の話などを持ち出し、なかなか公開してくれないですね。。全国に広がっているプログラムなので、既存の行政データを公開してくれる自治体を探して、そのフィールドで効果測定を行うことを考えています。。前半で下山さんがお話されていた、「みんなのデータをオープンにする流れ」が進むと良いなと願っています。
今後の進め方についてのディスカッションでは、「オンラインでどんどん進めたら良いと思う」という結論になり、この状況の中でもできることから進めて行くという前向きな雰囲気に溢れていたのが印象的だった。
第2回ワークショップ
プログラム
- 13:00 – 13:20 利用ツールのセットアップ
- 13:20 ‐ 13:30 趣旨説明
- 13:30 – 14:00 自己紹介
- 14:00 – 14:30 miroトライアル
- 14:30 – 15:00 指標設計レクチャー
- 15:00 – 16:00 指標設計トライアル
- 16:00 – 17:00 ふり返り
- Zoomへの接続チェック&サポート
- miroのボードに入れるかチェック&サポート
- 5goals for黒部の目指すところ
- 実験の趣旨
- miroのボードに自己紹介を書き込んでみる
- お名前/ご所属/マイブーム
- 全員でmiroのボードを見ながら順番に自己紹介
- 改めてmiroというツールについて紹介
- 基本的な操作方法のレクチャー
- フリー操作タイム
- 「1. 活動人口を増やそう」で説明→全員で書き込んでみる
- Zoomのブレイクアウトルーム(Zoomを何人かのグループに分ける機能)を使って、2〜5の指標の検討にトライ
- ツールを使ってみてどうだったか?
- 指標設計の進め方はどうだったか?
- 今後の公開ワークショップの計画をどうするか?
参加者:計25名
- 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員:7名
- 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員会アドバイザー:2名
- 事務局(黒部祉協):3名
- 関係団体:12名
- 一般社団法人オープンガバナンスラボ:1名
振り返り(下山)
元々指標設計のワークショップでは、付箋紙を使ったグループワークを実施することを想定していたため、オンラインで実施するために miro というツールを使用する形を取った。そのため、今回は指標設計の本編を進めるというよりも、まずはツールとオンラインでのワークショップ形式に慣れることがメインの内容となった。
概ね順調に予定していた内容は進行することができ、参加者の方々からは「オンラインでもこんなにワークショップができるとは意外」という驚きが挙がっていた。順調に進められた理由としては、参加者の皆さんが新しいものに対して嫌煙せずに新鮮に感じて受け入れる姿勢をお持ちだったことが大きかったように思う。
一方で、一部ツールがうまく使えなかったという方もいたため、サポート方法にはもう少し工夫の余地がある。日本語化されていないツールの場合にハードルがある点も指摘があり、他のツールの利用を検討する方向もあるが、全員がツール操作をしなくて済むようにグループワークでの役割分担で解決することができないかと考えている。
ワークショップの方法については、Zoomのブレイクアウトルーム機能(分室機能)を使ったことが好評であった。「通常のワークショップでは周りの声が聞こえてしまうところ、進めやすかった」という意見もあった。人数は4-5人程度がちょうど良いという意見が多数であった。また、ディスカッション内容を可視化しながら進められる点が良いという意見もあった。
改善点として挙げられたのは、個人で考える時間と、他の人とディスカッションする時間を分けた方が良さそうという意見があった。また、今回5GOALSの各ゴール毎にグループ分けを行って進める形を取ったが、グループ内で議論の軸がゴールになったり、ターゲットに移ったりして統制を取るのが難しかったという意見もあったため、テンプレートの改善が必要と考えられる。
全体を通しては参加して楽しかったという意見が多数であり、和気藹々とした雰囲気で進行することができた。ワークショップをオンライン開催することに関して、遠隔地からの参加や、現地まで赴けない状況の方の参加が可能になるため、より多様な方々とのコラボレーションが可能になるという点に期待が寄せられた。
第3回ワークショップ
プログラム
- 13:30-14:00 オリエンテーション、アイスブレイク
- 14:00-15:30 指標設計:Step1
- 15:30-15:40 休憩
- 15:40-16:40 指標設計:Step2
- 16:40-17:00 振り返り、意見交換
- 「5GOALS for 黒部」について(黒部社協 小柴さん)
- 話題提供:バルセロナ×神戸市のデータ可視化ワークショップでの事例のご紹介(OGLab 下山)
- その他、新しい動きや社会情勢についてのフリーディスカッション(参加者の皆さん)
- 指標設計Step1の進め方の説明
- miroを用いたグループワークの進め方の説明
- グループに分かれて進行
- 指標設計Step2の進め方の説明
参加者:計24名
- 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員:7名
- 第三次黒部市地域福祉活動計画策定委員会アドバイザー:2名
- 事務局(黒部祉協):3名
- 関係団体:11名
- 一般社団法人オープンガバナンスラボ:1名
資料
-
① 行政プロセスにデータ分析を取り入れるために知っておきたい知識と事例
※指標設計に関わるP.67〜を説明 -
③データから新しい観点や価値を引き出して「伝える」ためのデータビジュアライズ
※本題とは直接関係はなく話題提供として紹介 -
指標設計ワークショップの実施手順
※指標設計の全体の流れについては資料①P.73を参照
今回は本格的に指標設計のプロセスに入り、前回と同様Zoomのブレイクアウトルーム + miroを利用してグループワークメインで進める形を取った。
まず、なぜ指標として定量可能にすることが重要なのかを第一回ワークショップの資料をベースに振り返った。その上で、「5GOALS for 黒部」の達成状況を見るための指標を設計するには、大きく分けて以下の2種類の指標を検討する必要があると説明した。① アウトプット指標:問題なく活動を実施できているかを測るための指標
② アウトカム指標:活動を実施した結果、実際に効果が生まれているかを測るための指標
Step1では、5GOALSの各ゴールを一段細分化した「ターゲット」を対象に、「(ターゲット)を実現するためには何が必要か?」という問いを立て、必要な活動を洗い出し、アウトプット指標の候補を挙げて行く形を取った。また、「(ターゲット)の実現によってどんな変化が生まれるか?」という問いを立て、起こりうる変化を列挙した上で特に効果として計測可能なものに絞って「アウトカム指標」として採用できるようにすることを狙った。実際のワークは、まず講師の方でmiro上での手順を示した後に、参加者各々に5GOALSのうちどれについて検討したいかを選んで頂いた上で、Zoomのブレイクアウトルームで5つのグループに分かれて進める形を取った。
Step2では、引き続きグループワークで、Step1で挙げた指標候補に対し、どのようなデータで計測することができるかを考えて列挙する形で進めた。miro上では、Step1で用いた付箋と色を変えて、指標候補に対し隣り合うようにデータ候補の付箋を貼るようにした。振り返り(下山)
指標設計のプロセスにおけるコツとして、大きすぎるトピックを段階的に要素に分解し、十分小さい粒度になってから、データと結びつけるというものがある。参加者の皆さんにはそのプロセスをmiroを使った付箋ワークで進めて頂く形を取った。
複数のブレイクアウトルームでのグループワークの進行中は、講師がそれぞれのルームを回ってサポートを行った。通常のワークショップと異なり各グループの議論している様子が俯瞰できないため、miroでの付箋への書き込み状況を見ながら、滞っていそうなグループに優先的にサポートに入るようにした。しかし、一人で全てのグループをサポートしようとすると時間が不足気味であったため、講師を複数人体制にするか、グループごとにファシリテータを決めて事前に進め方を打ち合わせておく等の対策が必要かもしれない。特に、グループによってワークを進めるよりもディスカッションに夢中になってしまう傾向も見られたため、付箋に書き出すことを促す役が必要と考えられる。
「アウトプット指標」と比較すると「アウトカム指標」の検討はやや難易度が上がる。ある事象が起こった結果生じる変化が、どのような現象につながるか、特に定量的に計測可能な現象としてどのようなものに現れるか、様々な観点から考える必要がある。この時に、いかに多くの観点を持てるかが鍵になると考えられるため、同じグループにできるだけ異なる専門分野を持った方同士が集まるようにするといった工夫が有効かもしれない。また、今後関係者だけでなく一般参加も受け付けるオープンなワークショップを実施できることになれば、より観点を増やせるようになることが期待できる。
4-2. 行政プロセスにデータ分析手法を取り入れるための職員向け研修の実施
目的
行政職員が業務フローの中でデータ分析を取り入れられるようにするために、庁内外で研修を企画・実施する立場である行政職員を対象に研修を実施することで、研修参加者が今後自分たちで研修を企画・実施する際に、本プログラムの内容を活用できるようにすることを目指した。
連携団体
- 内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局ビッグデータチーム
-
神奈川県総務局 ICT推進部 ICT・データ戦略課
- これまでに自治体職員向けの研修を企画・実施してきた
研修方法を改善するために、まずは自分たちがデータ分析のスキルを習得したいと考えている
- 県におけるEBPM推進政策の中で、事業担当課のデータ活用の支援を担当する立場にある部署
- データ分析プロセスを習得して、事業担当課にアドバイスできるようになりたいと考えている
実施概要
Code for Japanによる「データアカデミー」のプログラムをカスタマイズして研修を実施した。
参考:地方公共団体におけるデータ利活用ガイドブック – 別添資料4.データアカデミー(データ分析編)の教材・資料等実施スケジュール
1. 内閣官房
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研修 DAY1
日時:2020年3月3日 13:00〜17:00
場所:内閣官房 会議室
内容:仮説立案・対象データ確認・分析手法検討 -
研修 DAY2
日時:2020年3月9日 10:00〜17:00
場所:内閣官房 会議室
内容:データ分析・評価・政策検討
2. 神奈川県
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研修 DAY1
日時:2020年3月17日 13:00~17:00
場所:神奈川県庁 会議室 -
研修 DAY2
日時:2020年3月25日 13:00~17:00
場所:神奈川県庁 会議室
- 第1回